Interview

Interview Vol.4 サウンドディレクター 中條謙自さん / 音楽 谷岡久美さん

Q.ゲームのサウンドはどのような方向性を目指したのですか?

中條
最初に依頼をいただいた時には、「リゾートが舞台の女性向けタイトルで、アコースティックで癒しの音楽を作りたい」という内容でした。そこで、この世界にはどの作曲家のどういう作風が合うだろうかと考えを巡らせたところ、谷岡久美が適任だと思いました。谷岡はピアニストという側面をもった作曲家なんです。谷岡は世間的にはバトル曲やファンタジー系のイメージが強いのですが、谷岡からは「アコースティックで耳に優しい音楽も作っていきたい」と聞いていたので、この作品に対して一番面白い結果を生めるのではないかと思いました。

谷岡
どんな音楽でも、受け入れてもらえたら、それが作りたかった音楽ということでもあるんだけれど、ぼーっとしている時に聴けるとか、子供が聴いて優しいとか、そういう音楽を人に聴かせたいという私なりの想いがあって、それを大事にした曲を書きたいと思っていました。例えば いろんな音を混ぜてではなくて楽器ソロだけで表現する音楽、そういう音楽を作ってみたいと思っていました。今回、「リゾート」というキーワードを聞いた瞬間に沢山の音が鳴らない世界だろうと想像したので、まるで音楽が風の音に乗っているかのような、あまり主張はしないけどそっと耳に残るような、そんな音楽を書いていこうと思いました。

中條
最初は生演奏の録音予定は無かったのですが、制作を進めていく過程で、ピアノは谷岡自身の生演奏が入ってきて、さらにアレンジの中にアコースティックギターやバイオリンも加わってきました。そこで、予定外ではありましたがレコーディングしちゃいました(笑)

谷岡
打ち込みでシミュレートすることも可能ですが、ピアノ一本、ギター一本、それしか楽器が無いとなると、ちゃんと演奏していないと説得力が全く違ってくるので。特に恋愛で感情移入することが大切なゲームですしね。

中條
のっぺりした打ち込みの音が流れてしまうのではなく、 アコースティックの本当の響きや、奥行き感と表現力のある音楽が流れてほしいですからね。そこで以前から親交の深かった二人のミュージシャン、アコースティックギターは太田光宏さんに、バイオリンは多ヶ谷樹さんに演奏をお願いし、表現力豊かな楽曲に仕上がりました 。

Q.メインテーマは最初に作りましたね。

谷岡
ヒロインのキャラクターがどんな人物かを聞いて、そのヒロインが南国でドキドキワクワクするような、一番賑やかな曲に仕上げました。他の曲は、メインキャラクター目線だったり、環境音楽だったりするので、プレイヤー目線の曲になれば良いなと思いました。

中條
大変なこともあるけれど、明るく前に進んでいくヒロインでしたからね。イントロは静かだけど前向きな力強さがあって、そこからリズムが入ってきて南国の海と青空に向かって飛び出す!という感じが出ていると思います。

Q.箱庭のフィールド曲はリゾート地らしくて、ずっと流していても良いですね。

谷岡
個人的にバリ島が好きなんです。グアムにも何度か行ったことがあります。自分が行ったことがあるリゾート地の海と、バリ島でぼーっとしている気分を思い出しながら作りました。南国に行って、車の音もしない、電車の音もしない、空気と、鳥の声と、水の音と、風の音しかしないような場所でガンガンなるような音楽を聴きたくない。となると、ギター一本、ピアノ一本、そういう潔いアレンジの音楽が良い。だけど南国なので、少しとぼけた感じの楽器も入れて、どこまでも癒しの曲にしました。

中條
邪魔にならないけれど、雰囲気はしっかり出ていると思います。ゲーム中だと音楽だけではなくて、波の音や鳥の声も重なってリゾートらしさを演出しています。波の音などもゲーム内でテスト再生してみたところ、すごく良い感じになりましたので採用になりました。

Q.真咲の曲で心がけたことは?

谷岡
見た目がちょっと怖いけど、落ち着いているキャラクターだと思いました。他のキャラクターに比べると明確なメロディーはなく、最初はどんな人か捉えにくい堅物っぽい人の曲にしてみました。

中條
真咲は一番苦労したよね。初回のデモが出来上がってきた時には、キャラクターのテーマだけどメロディーがないのはどうなんだろう?と谷岡と議論もしたのですが 、キャラクター性を考えるとこの形が良いのではないか、という結論になりました。一般的なキャラクターテーマの概念と同じことをするよりも面白くなったと思いますよ。

谷岡
全ての曲にメロディーがないといけないのかというと、そうではないと思います。どこでも常に音楽が鳴っている演出は良いのかどうかというのと一緒で、全部が全部マックスだとメリハリが無くなってしまいます。音楽自体を抜くシーンもあれば、曲展開の中で音数を減らす場所があったり、激しい曲と静かな曲があったりするのと同じです。真咲の曲もメロディーはないのだけれどよく聴くと口ずさむことはできて、そういう曖昧さも曲として良いかなと思います。

Q.ヒューゴの曲で心がけたことは?

谷岡
普段の曲はもう「ヒューゴのキッチン」です(笑) 飄々として、余裕がある、本性見せてくれない、だけどニコニコしている感じにしています。恋愛シーンでの曲は、フランスとイタリアのジュテームみたいな感じで甘々なアレンジにしました。ヒューゴはなかなか人を好きにならないけど、本当に人に好きになったらこのくらい好きになるだろうな、と思って曲にギャップをつけました。

Q.ライの曲で心がけたことは?

谷岡
元気で明るくて、楽しむし、悲しむし、悩むし、主人公になりやすそうな性格でした。見た目が少しチャラいけど、チャラさよりも若さを出していきました。メインキャラクターの中で一番やんちゃで幼さがあったので。表面的なライの性格だけではなく、裏に少しある悲しみをメロディーの中に入れています。恋愛シーンでのアレンジになるとチャラさが消えて、いつものライと違って「アレ?」と感じてもらえるようにしました。

Q.水鳥の曲で心がけたことは?

谷岡
水鳥の見た目と、シナリオを見て、このキャラクターがこういうことをするとどうなるかと思って作りました。少しインテリっぽい感じもあるなと。トライアングルが少し可愛い要素で入っています。恋愛になるとどうなるかは難儀しました。水鳥の恋愛観をどうとらえるか。可愛らしい感じかと思って最初は弾んだ演奏にしたけど、それだと子供っぽすぎたので、もう少し甘い恋愛にしたいし、弾き方は甘くしてテンポを少し速くしました。

Q.曲を生演奏にしたこだわりは?

谷岡
普段は音数が多いアレンジの場合は演奏力よりもハーモニーや構成を重視するのですが、ピアノ一本なのに打ち込みだとボロが見えてしまいます。自分が演奏家もやっている以上は妥協できなくて。ピアノを生演奏にするのだったら、(クリックに合わせたような演奏ではなく)ピアノが崩して弾いているのに合わせてギターも生演奏で崩して弾いて欲しいな、と。セッションしている感じの音を出したかったんです。

中條
今までいろんな曲を作ってきている中で、ピアノがここまでソロだとか小編成の曲は無かったよね。

谷岡
初めてです。もっと言うと、自分が弾いた音をそのまま自分の曲に入れたのも初めて。数年前までは、「自分が弾いたものはテンポが揺れていてあまり使えない、インテンポのほうがいいんじゃないか?」とかなり思っていたから。

中條
ゲームの世界は打ち込みの音楽が多いから、残念ながらそういう傾向が強いんですよね。大編成になればなるほどそういう基準が必要だし。今作では、生の演奏やゆらぎが活かされたアコースティックのアプローチになったと思います。最近のスマートフォンのゲームは表現力が進化してるので、特にこういうドラマ性のあるゲームには音楽も進化していくべきで、アコースティックさとかリアリティは必要だと思います。それだけで、他の作品よりも一歩抜けた音楽表現になっていると思いますよ。

谷岡
このゲームの世界の中でキャラクターたちは働いてもいるけれど、舞台はリゾートなのでプレイヤーにはリラックスしてほしいし、そこでインテンポ刻まれてもな、と思いますし。そこまで意識的に音楽を聴くわけではないけれど、無意識に入ってくる音楽はちょっと崩れていた方がよりリラックスできると思います。

Q.ゲームの効果音について、こだわったポイントを教えてください。

中條
このゲームのサウンド要素の中で一番大事なのは声。声優さんたちのセリフが一番大事で、それを支える谷岡の音楽があって、もうそこで「リゾートへようこそ」の世界は出来上がっています。だから、効果音はそんなにアピールをしないほうが良いだろうという出発点でした 。もちろん、リゾートらしいリラックス感、高級感は大事なので、ベル系などの音色をメインにしながらも、決定したことがわかる、成功したことがわかる、しかし主張しすぎない控えめな効果音作りをしました。今までは音楽やセリフに負けない効果音を作ることが多かったので、普段の自分に無いタイプのアプローチでの効果音作りが出来ました(笑)

Q.紙をはがす音や、建物を動かす音が気持ち良いです。

中條
僕自身はコンシューマゲームでのサウンド制作でキャリアを積んできました。最近はスマートフォンゲームの制作も多いですが、コンシューマゲームだとボタンを押す時に(物理的なボタンが存在するので)それだけで押し込んだ感触があるのですが、スマートフォンやタブレットではそれがない。タッチした感触と音の感触が違っていたら気持ち良くないんです。スマートフォンゲームの開発ではそこが大事で、タッチした感触とエフェクトの感触と音の感触が一致するように意識しています。あと、コンシューマゲームでは押した時に決定だけど、スマートフォンゲームでは離した時に決定だから、その感覚も違いますね。

Q.大量のボイスの編集もありがとうございます。

中條
このゲームでは、何度も聴いてくださる人もいると思うので、時間を掛けて細かく編集しました。大事なシーンでノイズなどの没入感をそがれてしまう要素は入ってはいけないですよね。今作では音声収録のレコーディングエンジニアも担当させてもらい、録音時の音質から管理しました。音響監督がキャラクターの性格や演技をディレクションしているその脇で、その演技がきっちり音として捉えられるように、ノイズが無く音質に問題がないかを細かくチェックしていきました。例えば、声優さんのマイク位置や角度がちょっと変わるだけでも音が変わってしまうから、一番良い表現が録れるようにマイクを調整しますし、収録日や声優さんのコンディション、機材のコンディションなどでも音は変わってしまうから、毎回しっかりチューニングして録音していきました。

Q.最後にプレイヤーのみなさまにメッセージをお願いします。

谷岡
このリゾートの世界にも、恋愛のストーリーにも、入り込んで、はまりこんで、自分の家にいながらリゾートに飛んで行っている気分を味わってもらえると嬉しいです。とことんゆるい感じで楽しんでみてください。

中條
今回、サウンドディレクターとして、音の様々な要素を全体的にまとめるために、多くの方々と密にやりとりしながら制作を進めました。開発スタッフのみなさんとはもちろんのこと、音響監督の菊田浩巳さんとはボイス演出面で、谷岡久美とは楽曲面で、ギターの太田光宏さんやバイオリンの多ヶ谷樹さんとは演奏面で、それぞれきっちり話し合っていきました。そうやって全部の音の入口から出口までやらせてもらったから、「リゾートへようこそ」の音の世界はひとつにきっちりまとまったものができていると思います。ぜひサウンドで創り出した世界観も楽しんでください。

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